IT契約・法務のメモ

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ユーザの提供した情報が不正確であるとしてシステムに瑕疵はないとされた事例

東京地八王子支判平成15年11月5日

【事案の概要】

 本件は、被告に新総合情報システム(末端店舗から必要な情報を出入力するシステムであるEOSシステムを含む総合情報システム)の構築を発注した原告が、被告に対し、主位的に、被告の納入したシステムには瑕疵があるとして、民法六三五条による請負契約の解除に基づき、請負代金の返還を求め、予備的に、被告には、原告が使用可能なシステムを納入すべき義務の不履行があるとして、民法五四一条による請負契約の解除に基づき、請負代金の返還を求め、さらに予備的に、被告には、システムの構築に当たって原告から十分なヒアリングをすべき善管注意義務及び原告がシステムを本稼働させるまでサポートすべき義務の懈怠があるとして、民法四一五条に基づき、損害賠償を請求している事案である。

 【判旨】

 被告は、コンピューターソフトウェアの開発、販売、コンサルティング等の専門企業であり、システムを構築するについては、顧客である原告から、その業務の内容等必要な事項を聴取し、その結果に基づいて、原告のシステム導入目的に適うシステムを構築すべき義務を本件請負契約に基づき負うものと解されるが、他方、原告も、一つの企業体として事業を営み、その事業のためにシステムを導入する以上、自己の業務の内容等被告がシステムを構築するについて必要とする事項について、正確な情報を被告に提供すべき信義則上の義務を負うものと解される。
 そして、発注データを変更するのがどの程度の割合であるのか、バイヤーが変更を検討するのにどの程度の時間を要するのかという点は、青果販売業者である原告の専門とする領域に属する事項であり、かつ、原告のみが知りうる事項であるから、原告において、充分にこれらの点を検討し、正確な情報を被告に提供すべきであったといえる。
 これを本件についてみると、システム導入責任者であったK、現場のバイヤーなど原告側担当者は、被告側担当者との仕様検討会において、発注データを変更するのは全商品数の一割程度であること、バイヤーが変更を検討する時間自体は二〇分程度であることを伝え、被告側担当者は、これらの情報を前提として、システム運用フローにおいて、発注修正に要する時間を約一時間程度と見込んだのであるが、運用テストの結果に照らせば、発注データを変更する商品の割合、バイヤーの変更検討時間のいずれの点においても、原告の上記情報は不正確であったと言わざるをえない。
 したがって、たとえ被告がコンピューターシステムの専門家であるとしても、システムを構築する前提としての原告の業務の実態が正確に被告に伝達されなければ、被告において、原告の業務に適合するシステムを構築することは困難であるから、本件システムが、発注データを変更するのは全商品数の一割程度であること、バイヤーが変更を検討する時間自体は二〇分程度であることを前提として構築されたものであることについて、被告に責任があるとはいいがたく、これに起因する事由をもって、本件システムの瑕疵に当たるということはできない

システム開発は、ベンダとユーザの共同作業であり、ユーザからの情報提供等の協力なしには成り立ちません。

そのため、ユーザには、契約上または信義則上、ベンダに対する協力義務が認められると考えられます。

本判決は、「原告も、一つの企業体として事業を営み、その事業のためにシステムを導入する以上、自己の業務の内容等被告がシステムを構築するについて必要とする事項について、正確な情報を被告に提供すべき信義則上の義務を負うものと解される」とし、原告が提供した情報が不正確であることに起因するシステムの状態をもって瑕疵にあたることはできないと判断しました。