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企業法務、経営、IT・ネットの法律問題についての雑記

契約締結上の過失が認められた事例

東京地判平成24年4月16日

【事案の概要】

本件は,被告が新たな業務システムの構築事業者を公募したのに応じて,同システムの構築事業者に選定された原告が,被告から正式な発注を受けないままシステム構築に係る具体的作業を進めていたところ,被告から一方的に契約締結を拒絶されたと主張して,被告に対し,契約締結上の過失に基づき,原告が被った損害の一部である合計8794万6425円及びこれに対する平成21年6月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

【判旨】

 上記1の認定事実によれば,被告は,本件システムの構築事業者を公募することとしたが,公募に際して,構築事業者に選定された者との間で本件業務委託契約を締結し,その締結時期を平成19年3月下旬とする旨を表示していたこと,原告は,この公募に応募して,被告から本件システムの構築事業者に選定されたが,同月下旬に本件業務委託契約が締結されることはなく,同年4月から原告担当者,Nの担当者及び被告の担当者間で本件システムの構築に向けた仕様の確定等の作業が進められたこと,被告は,同年5月23日と24日に原告から見積書を受領していたが,さらに,同年6月15日には,原告に対して正式な見積書の提出を求め,その際,見積書の見積金額を技術提案書添付の見積書の見積金額以下とするという条件を付したものの,それ以外には見積内容や見積金額に何らの注文も条件も付けなかったこと,そこで,原告は,同月21日,被告に対し,被告の付した条件に適った見積書を提出したが,被告が正式な発注をしないため,同月27日には正式な発注をするよう文書で求めたこと,原告は,被告との同年7月4日の打合せにおいて,新たに被告のコンサルタントとなったKの代表者から,原告の提出した見積書の見積内容に不明な点があり,見積金額を減額するよう求められたが,原告は,それまで,被告側から,見積書の見積内容に疑問を述べられたり,見積金額の減額を要求されたりしたことはなかったこと,その後,原告は,同月23日,被告に対して正式な発注を再度求め,更に,同年8月23日には,原告担当者,被告の理事長らが協議の機会をもったが,契約締結の合意はされず,結局,被告は,同年9月27日,原告に対し,見積金額の合意が得られないことを理由として契約締結はしない旨の最終的な意思表示をするに至ったことが認められる。
 以上の事実関係を総合勘案すると,被告は,原告を本件システムの構築事業者に選定した後,原告との間で本件システムの構築に向けた作業を進める過程において,原告に対して見積書の見積内容に対する疑問や見積金額に対する不満を伝えたことはなかったにもかかわらず,同年6月下旬以降,契約締結を躊躇する姿勢を示すようになり,同年7月4日になって,原告に対し,一方的に,見積内容に疑問があり,見積金額を減額すべきである旨を主張し,結局,同年9月27日に見積金額の合意が成立する見込みがないとして契約締結を拒絶するに至ったのである。そうすると,原告としては,同年6月下旬までは,技術提案応募要領に記載されたとおり,選定された構築事業者として見積書記載の見積金額で被告との間で本件業務委託契約が締結されるものと信頼して本件システムの構築に向けた具体的作業を行っていたことは明らかであり,上記の経緯に照らし,原告がそのような信頼を抱いたことについては相当の理由があるというべきである。したがって,被告は,信義則上,原告に対し,上記の信頼を裏切って損害を被らせることのないよう配慮すべき義務を負っていたものである。
 しかるに,被告は,同年4月以降,同年7月4日の打合せに至るまでの間,原告が被告との打合せに基づいて本件システムの構築に向けた仕様の確定等の具体的作業を行っており,それに必要な費用を支出していることを認識しながら,原告の提出した見積書の見積内容や見積金額に疑問や不満を述べることもなく,これらの作業に協力しており,それにもかかわらず,見積金額の合意成立の見込みがないことを理由として本件業務委託契約の締結を拒絶するに至ったのであるから,そのような被告の対応は,上記のような信頼を抱いていた原告との関係においては,信義則上の義務に違反したものと認めるのが相当であり,被告は,本件業務委託契約の締結を信頼したために原告が支出した費用等の損害について不法行為による賠償責任を負うというべきである。