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死者に対する名誉毀損記事の削除請求ーネット上の誹謗中傷対策

死者自身の権利侵害を根拠に削除請求を認めるのは困難

名誉毀損表現に対する削除請求は名誉をされた者の人格権に基づき行われます。この点について、死者は権利主体にはならないので、死者の人格権侵害を根拠とする削除請求は現行法上認めることは困難です。

そのため、死者に対する名誉毀損記事の削除請求を法的手続で請求する場合は、後述のように、その表現が同時に遺族自身の名誉を毀損しているとして、遺族に対する権利侵害を根拠に削除請求をするか、遺族の死者に対する敬愛追慕の情という利益の侵害を根拠に削除請求をすることが考えられます。

遺族自身の名誉を毀損している場合

死者に対する名誉毀損表現が、同時に遺族の名誉を毀損している場合は、遺族が自身に対する人格権の侵害を根拠に削除請求をすることが可能です。*1

遺族の死者に対する敬愛追慕の情を侵害するという法律構成

死者に対する名誉毀損が遺族自身の名誉を毀損しているといえない場合でも、遺族の死者に対する敬愛追慕の情を侵害している場合には、削除請求が認められる可能性があります。

裁判例は、死者の名誉を毀損し、これにより遺族の死者に対する敬愛追慕の情を、その受忍限度を超えて侵害したときは、当該遺族に対する不法行為を構成するものと解するのが相当であるとしています*2

敬愛追慕の情を受忍限度を超えて侵害するものであるか否かについては、「当該行為の行われた時期(死亡後の期間)、死者と遺族との関係等のほか、当該行為の目的、態様や、摘示事実の性質、これが真実(又は虚偽)であるか否か、当該行為をした者が真実であると信ずるについて相当な理由があったか否か、当該行為による名誉毀損の程度等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。」とされています。

死者に対する名誉毀損の刑事罰

死者に対する名誉毀損も刑事罰の対象になります。もっとも、死者に対する名誉毀損が成立するのは、摘示事実が虚偽である場合に限られます。

刑法230条

1 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

*1:静岡地判昭和56年7月17日「ところで、社会生活上ある者の名誉の低下が一定の近親者等の名誉にも影響を及ぼすことのある実情を考慮すると、新聞記事によつて死者の名誉が毀損された場合には、一般に、社会的評価の低下はひとり死者のみにとどまらず、配偶者や親子等死者と近親関係を有する者に及ふことがあることは肯認しうるところであるといわねばならない。世俗的関心の高い新聞記事であれば殊更であつて前認定の事実関係もその例に洩れるものではなく、特に原告遠藤さわゑについては、亡光代の母として、本件記事によりその地域社会において同原告自身の社会的評価を低下せしめられ、名誉を毀損されたものとすることができる。このような結論は子の名誉を親の名誉と同視することによるものではなく、前記の社会の実情によるものであるから、決して個人の権利、利益の尊重と相容れない思考によるものではなく、被告がこの点を封建的家族制度の残滓であると強調するのは失当であるといわねばならない。」

*2:東京地判平成23年6月15日